コトバを味覚化する
仕事とは?

——あなたは、たとえばコカ・コーラの味を、コカ・コーラを飲んだことがない人にコトバで説明できるだろうか?

そして、そのコトバに耳を澄まし、想像を膨らませ、その味を再現できるだろうか? 内構の仕事とは、ひらたく言えば、そうしたクライアントが放ったコトバをゴールに向かって味覚化、商品化することである。

Aというクライアントから新商品の食品Bの開発話が舞い込む。新商品とは、基本的に「今までこの世になかったもの」だ。現実的には「従来品Cにここをプラスした、ちょっと違うもの」ということが多いだろう。あるいは、「人気商品Dと似たタイプを安く作る方法はないか?」といった依頼もあることだろう。

それら新商品のコンセプトは、すべてコトバで示される。繰り返すと、内構の仕事とは、提示されたコトバを、経験と知識と感性を総動員し、ゴールに向かって味覚化、商品化することである。そこにこの仕事の大変さと面白さがある。

内構 友理  Yuri Uchigamae
2021年4月入社
宮城大学食産業学群フードマネジメント学類卒
商品開発部主任

幼稚園の頃、
家族が褒めてくれた
うどんの成功体験が
私を食品関連の道に進ませる

内構 幼稚園に入るか入らないかの頃でした。毎月料理キットが届く頒布会のようなものを、私のために母が申し込んでくれて、その初回がうどんでした。記憶にはないのですが「私も料理をしてみたい」と母にせがんだのかもしれません。

うどんを粉からこね、熟成させて、といった本格的なものです。私は、のめり込みました。出汁も自分で取りました。そうして出来上がったうどんは、「おいしいね」と家族に大好評でした。それ以降、母の手伝いで料理とか、趣味でお菓子作りとかをしていましたね。

高校生になり、進路を決める時、宮城大学食産業学群フードマネジメント学類を選択しました。作ったうどんを家族に褒められたという幼少時の体験が、私の背中を押したのかもしれません。

その時点では食品の生産系の職種に就きたいという明確な目標はありませんでした。ただ、食べることが大好きでしたので、農業や漁業、酪農畜産といった一次産業のことから、加工や流通の段階まで、日本の食に関することをまんべんなく学びたいと思い、この学部を選びました。そこで水野社長と出会ったのです。

水野社長、というか水野先生は、年に一度だけ、宮城大学で講義をされていました。お話は、情熱を帯びていました。インパクトが有り、鰹節に対する愛を感じました。そして、面白い。堅苦しくなく、わかりやすい。研究熱心、仕事熱心な先生だなという印象を強く受けました。

——水野先生と、水野社長。かつては先生と生徒の関係が、今は社長と社員の関係になっています。肩書の異なる2タイプの水野勉と接してみて、感じたことは何かありますか?

内構 社長としては、おそらく厳しい方なのだなと思い、身構えて入社したのですが、全く違いました。すごくフランクなのです。たとえば廊下ですれ違ったときなど、こちらが緊張していると、気さくに声をかけてくださいます。物腰が柔らかく、従業員に気を使う、気配りされる社長です。

味覚を鍛えるために
進んで外食をする
その店のレシピを
組み立ててみる

内構 今、家から会社までドアツードアで15分くらいのところに住んでいます。完全週休2日制で、残業は繁忙期やイベントの前などに「どうしても」という時はありますが、それ以外はほとんどありませんね。基本的には17時の定時で帰りますので、商品開発は短期集中型です。

昼食は12時から13時まで。近所に美味しいうどん屋さんやお蕎麦屋さんがありますので、そちらに行くことが多いです。私はどちらかというと一人で食べることが多いですね。今日はデスクで食べましたが、最近は会議室でみんなといっしょにお弁当を持ち寄って食べることもあります。

味覚を鍛えるために、積極的に外食をするようにしています。自分で料理すると、自分の好きな味、好きなメニューしか作らなかったりするので。普段食べないものであってもトライしてみたり。この店の味は少し変わったな、料理長が変わったのだろうかとか、そういったチャレンジは常にしていますね。

職業病なのかもしれませんが、うどん屋さんに行った時などは、「これは何節と何節を使っているな」とか、つい頭の中でレシピを組み立ててしまいます(笑)

最初は何種類の出汁を使っていると言われてもピンとこなかったのですが、毎日鯖節単体で取った出汁を飲んでみたり、二種類混ぜて飲んでみたり。そうして、単体と混ざったときの香りや味の違いが少しずつつかめてきました。

単体での香りや味を知っていないと、それがどれくらい入っているのか把握できず、表現も再現もできません。ですから、すべての原料で、単体でまずはちょっと舐めてみる。そうして経験値を積み上げ、ベースとなる基準値、味覚のものさしを体内に築き、それと比較してこの味はどうか? 即断できるようになることが大切です。

センサーでも甘みや塩味、すっぱさ、旨味、苦味を、機械で計測して数値化することはできるのですが、それと人間の味覚はまったく一緒ではなくて。飲む人のその時の体調であったり、好みとか今日までの経験に引っ張られてしまいますので、数値で示されたものと、実際に感じているものが一致しないことが多々あります。ですから体調管理は大切ですね。常にニュートラルであること、そして私自身としては、お酒を飲みすぎないようにしようと日々誓っています(笑)

●内構友理の1日のスケジュール

 08:30 出社し、メールのチェックや本日の予定の確認
 09:00 朝礼。社内全体での連絡事項を共有
 09:30 レシピの作成
 12:00 昼食
 13:00 営業や社外の方との打ち合わせ
 15:00 午前中に作成したレシピの改良

クライアントの求める
味と香りを
探り、絞り、定め、試作する

内構 「こんな味で、こんな香りで」。お客様からこういったエキスがほしいとご依頼をいただき、それは「こういうことだろうか?」と私なりに考え、試作品としてカタチにするのが私の仕事です。

そして、まずはたたき台として、「こういったスペックで作ってみましたがどうでしょうか」と、第一回目の試作品をご提案します。その初回の時点で、「あ、これはなかなかいいね!」という評価をいただくこともあります。とてもうれしくなります。

もちろんその後も、細かな調整を重ねていきますが、お客様が描いたイメージと、それをお聞きして作ってみた私の試作品がほぼ一致した時。お客様から聞いたイメージを上手く商品というカタチに落とし込めた時。その時、やりがいを感じます。求める理想に一歩近づけたのですから。

——たとえば、「甘み」という言葉一つでも、人によって捉え方、感じ方、表現が違います。何と似た甘みなのか? 何と違う甘みなのか? 最初からガツンと来るのか? それは後味としてほのかに現れるものなのか?

内構 ですから、この仕事は「聞く力」が大切です。上手に聞くことは、私はまだ不得手で、経験不足だと自分自身で感じています。何が本当に必要な条件なのかを探り、絞り、定めることは、本当に難しいですよね。

——逆に、試作品での失敗談はありますか?

内構 入社1年目の時、「いい商品を作ろう」と意気込んでいました。ですので、コスト度外視で試作品を作ってしまったのですね。水野社長から「いい商品開発とは、質とコストのバランスだ」と諭され、目が覚めました。

——そういえば先日、TVで「アマチュアラーメン選手権」のような番組を観たのですが、「一杯の予算は材料費3,000円以内で、料理にかける時間は無制限」といった条件でした。素人の発想、設定だなと思いました。ラーメンの小売価格には千円の壁がインフレ下においても未だ根強いですし、仕込み時間が無制限というのもありえません。

内構 その最終商品が、原価を積み上げていった結果、その価格で、本当に売れるのか、売れないのか? 手間なく使えるのか、使えないのか? 売れてこそ、手間なく使えてこそ、プロの商品ですので、商品開発するうえで、コスト意識——原価計算や効率性の熟慮は欠かせません。

弊社の商品にアルコール抽出のエキスがあります。一般的な鰹節エキスと比較すると、4〜5倍はする、とても高価なエキスです。それくらいのコスト感なので、本当に一滴も無駄にできませんね。

いきいきと仕事をして
いただきたいからと
ジムやエステの費用を
会社が一部負担してくれる

内構 弊社には健康増進制度があります。たとえば健康維持や体力づくりでジムに通う。疲れを残さないためにサウナでくつろぐ。あるいは美肌や痩身のためにエステで自分磨きをする。

健康増進制度は、日々を健康的に過ごし、得られた活力を仕事に活かしていただくために、使った費用の一部を会社が負担してくれる制度です。私はエステには通っていませんが、最近、ゴルフのレッスンを始めました。

——会社では、よくゴルフ大会を催されていますよね?

内構 いいコミュニケーションになりますから、ぜひ参加したいと思います。コースデビューは未だですが、近いうちに。

——今、入社されて3年が経ちました。3年前に自分がイメージしていた自分になっていると思いますか? また、さらに3年後の自分はどうなっていると思いますか?

内構 3年前は、自分が開発した商品を褒めてもらえたりですとか、そんなイメージはまったくなかったので、自己評価でありますが、成長できているのかなと思いますね。そして3年後は、未だ半人前ですので、一人前と言える開発者になっていたらと思います。

また、弊社の商品は現在、国内でしか販売していません。まずは国外に出すということが大事なのかなと思います。Dashi Corporationといえばこの商品だと言っていただける商品を開発できたらと思っています。

——具体的にはどんなものになると想像していますか?

内構 出汁は嗜好品的な一面が強いので、具体的にこれという一品ではなくて、オーダーメイドの形に近いのかなと思っています。世界で共通の出汁を売っていくのは、国や地域によって好みが分かれますから、厳しいのではと個人的には思います。たとえばアメリカだったらこの出汁ですとか、国別の出汁があったら面白いと思います。

——最後に。休日は、どんなことをされているのですか?

内構 頭を切り替えて同僚とゲーセンに行ったりと、ゲームに没頭することが多いですね。アクション系が好きで、今はモンスターハンターにハマっています(笑)